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2025

    奇跡を可能にした 伝統企業の“自律分散型組織経営”

    奇跡を可能にした 伝統企業の“自律分散型組織経営”

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    味噌を作り続けて170年。マルコメ株式会社は日本有数の歴史あるファミリー企業だが、彼らのことを保守的な会社と理解してはいけない。戦後の混乱期に信州味噌のブランディングに成功し、顧客のニーズに応え続けた商品展開で全国区になり、今は食を通した持続可能な社会実現のための開発にも積極的だ。青木時男社長の精神には、先代や先達への厚い恩義と「自律分散型組織」の理念に見る革新性が両立していた。

    長い歴史は、ファミリーの伝統と革新へのチャレンジの証

    貴社は、創業1854年(安政元年)という日本でも有数の歴史ある企業です。そうした歴史の重みを、青木社長ご自身はどのように捉えていらっしゃいますか。

    伝統食品業界では300年という会社もありますから、古い方でもないと自覚をしています。ただそれだけ長く生き延びてきたのは確かなので、まず先代や先達の皆様方に感謝することを第一義に考えております。私たちはファミリービジネスですから、家族で思いを共有するのは重要なのです。一方で長い歴史は伝統を守りながらも革新へのチャレンジを続けた証でもあります。今後も温暖化の潮流に対応した大豆ミートや、糀を使ってヘルスコンシャスに適応させた調味料など時代の変化に合わせた商品を出し、少しでも社会と皆様の生活に貢献できることを考えていこうと思っております。

    貴社は業界でもトップの売り上げを維持されています。味噌は「地域性」がある食品で、特殊な業界であるとも伺っていますが、そうした“戦いにくい”と思われる業界のなかで、貴社の商品が長く愛されてきた理由を、社長ご自身はどこにあるとお考えでしょうか。

    全国では1000社弱の味噌メーカーがあり、津々浦々の伝統と文化を背負っています。私たちも長野市安茂里で味噌と醤油の醸造事業を始めていたのですが、地域性に基づいた小売店が少なくなるという現実に直面しました。そこで第二次世界大戦後、長野県の味噌工業組合連合会を発足させ東京の大市場に出ようと考えたのです。まがい物の味噌が流通している配給の時代、長野から間違いないものを持っていこうという思いで信州味噌のブランディングと安定供給を図ったのですが、これが成功し好評を博しました。そして小袋包装の時代になり、私たちの商品がマルコメというブランドで販売されるようになって、全国展開のナショナルブランドに進化したのです。まさに、終戦直後の先代たちの知恵によって広がったわけです。しかしそこで留まらず、だし入りみそを作ったり液みそを作ったりと、先代の心は大切にしていきながら、進化を続ける心でお客さまのニーズを考えた新商品を出し続けていったことによってブランドが維持されたと考えています。

    あおさの陸上養殖成功を導き出した「自律分散型組織」の強み

    近年の貴社の取り組みとして、愛媛県での「あおさの陸上養殖」プロジェクトが注目を集めています。貴社にとってこのプロジェクトは、今後の展望も含めどのような意味をもつとお考えでしょうか。

    発端は、徳島文理大学の山本博文教授によるあおさの陸上養殖研究がテレビで放映されたことでした。味噌汁に使う具材のあおさは温暖化で収穫が難しくなっているのですが、内製化して養殖ができるとなれば安定供給できるのではないかと。そして新入社員入社2年目の松島大二郎に話し、長野県の山から愛媛県西予市まで行ってもらいました。よく頑張ってくれて、8年掛かって成功しました。専門家に言わせると奇跡的なのだそうです。普通の会社なら、3年ぐらいでものにならない事業は全部やめます。ただ私たちはオーナー企業で、自律分散という考えのもと各社員がそれぞれのビジョンを自分なりに踏まえて邁進する組織なので可能になったのです。あおさは単に具材の範疇に留まらず、持続可能性やエシカル消費のアピールという点でも重要です。今後は愛媛県と西予市と一緒になってあおさをまず内製化し、できるだけ適切な値段で市場に提供するよう努めます。

    今のお話で、貴社はトップダウンではなく自律分散型であるとおっしゃいました。各部署、各個人が自身で考えてアイディアを持ち、業務を遂行していく組織をどう取りまとめるのか、トップの立場として意識していることはありますか。

    私はいつも機会あるごとに、ピラミッドの一番下には私がいる、失敗しても私が全責任を負うので気にしなくていいから成功するよう頑張れと話しています。ただそれでも、チャレンジする人は少ない。そこに先に述べた松島のような社員が、誰も知らなかった社内プロジェクトで突然ヒーローになった瞬間にみんな驚くのです。こうして社員相互に刺激を与えて、切磋琢磨の一つになれば面白いかなと思っております。今はますます予測不能の時代になっていますので、稟議や上からの指示を待っていると時間のズレがはなはだしいものになる。現場にいる人間がリスクを取ってとりあえずベストと思うことをやれということです。自律分散型組織はもともとアメリカ軍の戦略理論なのですが、私たちはそういう性格の組織を作れているのかなと思っております。

    先代への恩義は信州味噌の永続で示す

    青木社長が「マルコメ株式会社」のトップとなったきっかけは、ご結婚にあったと伺っています。簡単な道ではなかったと思いますが、どのような思いで当時の会長の思いに応えられ、また困難をどのように乗り越えてこられたのでしょう。

    先代には娘2人しかいなかったので、当初は長女が婿を取って継ぐはずのものが外に出てしまった。まあ今だから話せるのですが、次女の婿である私には降って湧いた災難のイメージで本当に困りました。ただその時に今の会長で当時の社長、つまり家内の父は非常に信頼をしてくれまして、その恩義でいっぱいです。長野県の連合会も維持することは大変で、廃業する方々が今年も2、3件出てきます。これだけ素晴らしいものを残してくれたのだから組織を永続的に維持しないと先代に顔向けできないと考え、理事長として構造改革にも取り組みました。新しいことでは発酵食品製造の団体を『発酵バレーNAGANO』というコンソーシアムの組織にして、業界の永続的な発展を考えています。

    「日本のあたたかさ、未来へ。」というキャッチコピーで様々な事業を展開されていますが、その中でも「食育」と「環境」、「海外」という3つのキーワードが柱になっているとお見受けしております。こうした部分を踏まえ、今後の貴社のビジョンや展望をお聞かせください。

    やはり企業は永続しないといけないというふうに思っております。そのためにはその時代に必要なソリューションを提供することが必要で、さもなければ存在意義がなくなります。日本は人口が減っていき地方もますます疲弊していきますが、そこにはインバウンドと海外輸出などでバランスを取っていくしかないと思っております。同時に食育に貢献し、今の若い人たちの食の乱れという問題を解決したい。食は基本ですので、味噌を通して一緒になって支えていきたいです。

    #マルコメ#トップインタビュー#味噌#糀

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